yumiracleの日記

日常を過ごす中でふんわりと思い浮かんだ事 とつとつと、書き記していきます

定食屋


そこはひらけた町だった。

郊外の何もないような土地だ。
だけれども、とある私立大学のいくつかあるキャンパスのうちの一つがこの駅にあるため、そのおかげで必要十分なものが用意されたというところだ。
駅構内には、本屋がひとつ。
わりとこじんまりしつつも、クリーンな印象の駅を降りると、改札口手前には柿の葉鮨の有名チェーンが横目に見える。

駅前には、学生街らしく飲み屋が点在している。
関西の学生街には養老の瀧であったり、一休であったりのチェーン店がマストらしく、さらに餃子の王将がその色濃さを塗り足している。
けれど、よくある東京のごちゃりとした学生街の雰囲気とはまた違う。
東京の下町のような商店街なんてものもない。
どんなシチュエーションで買いに行くのかが今いちわからない、アイスなどがパッケージで売られているシャトレーゼなんかもある。
突如出来たというニュータウンのような雰囲気の新品さから、少しずつ馴染んできたという具合だ。
駐車場完備のだだっ広い関西有名チェーンのドラッグストアがあり、車道には木が植えられている。
その通り道に、和食レストラン、学生がゆさゆさ乗るバス停、小さなショッピング施設が併設されたスーパー、見渡せば線路と田んぼが広がる歩道橋、パンク修理で頼りになる自転車屋さん。
そのようなものがある。


その通りの一つに、一軒の定食屋さんがあった。
そこには、キッチンの見えるカウンターと、テーブル席が3つくらいが置かれている。気持ちのいい天気の日には、光が差し込み、テーブルはピカピカとしていて全てがきちんとしてみえる。


そこには、おかみさんがいる。
おかみさんというほどのおばさんではないが、背は小さく、肌の白くて華奢な身体つきをしている。
黒髪のショートで、前髪を斜めに流している。赤い口紅が似合う、キリッとしたどちらかといえば美人な印象の人だ。
声は低め、真の強そうなところと、
男の人であれば守ってあげたくなるような弱々しさやチャーミングさを兼ね備えている。

瞳は、上京して間もない。
手っ取り早く、野菜とご飯を含むきちんとした食事がとりたいと思っていた。
何度かその定食屋に行く度に、人の作ってくれた味噌汁はいいなあと、しみじみ感じる。お店の人と顔見知りになってカウンター越しに話をするのに憧れていた。
ある日、その定食屋にアルバイト募集の貼紙があった。瞳は、自分にやらせてほしいと申し出た。
おかみさんは、ありがたいと言い、少し言葉を濁らせた。
瞳は、具体的に何かを言われた訳ではないけれど、しばらく日が経つうちに、自分は求められていないことを悟った。

紹介されたのは、塾のアルバイトだった。
そこは駅近くの個人塾で、おかみさんの知り合いらしい塾講師と、向かい合って座った。おかみさんは、私が在学中であること、学部などを一通り説明し、席を外した。